杉みき子の『小さな雪の町の物語』「風と少女」で強く生きる

 

【対 象】小学校5・6年生、または、中学生

【ねらい】 少女の心情の変化を話し合うことを通して、あらん限りの力を出して行動することのよさについて考えを深め、希望と勇気をもってくじけないで努力しようとする心情を高める。1-(2)

【学習内容】

(1)あらん限りの力を振り絞って行動することのよさ

    (無益とも思える前進のためにさえ)全力を尽くせるということ

    生きる上で重要な事柄であること

(2)希望と勇気をもってくじけないで努力しようとする心情

    自分が努力していることの自覚

    自分自身の希望や夢

 

【資 料】『小さな雪の物語』「風と少女」 PP.22-24 『杉みき子選集 3』所収

       著:杉みき子  新潟日報事業者 2006120

 

杉みき子選集3

 

 (3ページ、38行の掌編)

     海辺の町へ汽車でふた駅、かぜぎみの母にかわって知人の家へとどけものに行く少女。はげしい風とあられめいた雪がアスファルトにくだける。

     道をまちがえ、橋のむこうに渡ることに。河口が近い長い橋は海のにおいがする。二、三歩渡りかけて、海から吹き上がってくる風は、今までの経験にないすさまじさである。傘がさせない。いくら足に力を入れても、体が浮く。半分渡ったところで、風の切れ間がなく、前へも後ろへも行けず、座ってしまうこともできない状況に。

     そのとき、つばさの長い海鳥が三羽、その翼を張りえないほどの風にさからって、北への進もうとする姿を見る。

     「無益とも思えるその前進のために、あらんかぎりの力をふりしぼって、ひたすら風にさらかいつづける。(中略)少女は、足もとのあやうさを忘れてその飛翔をみまもり、そしてわかった。−あれこそ、生きているということ。」(P.24 L2-6)

 

【学習過程】

@    海辺の町の様子について知る。(5)

    掌編だけに、状況の説明が端的になっています。子どもにとっては、激しい風と雪に行く手を妨げられる様子が目に浮かぶことが重要です。日頃の生活で経験している東日本や北日本の子どもなら、すっと入っていけるでしょうが、西日本の子どもはその状況が分かりにくいと考えられます。そこで、可能なら、吹雪の様子などを画像や映像で示せるといいと思います。

    中学生の場合は、そのことが、逆に心象表現の理解を妨げ、この掌編小説のよさを妨げるということもあるかもしれません。学級の実態に応じて工夫することが必要でしょうね。

 

A    半分ほど渡ったところでの少女の気持ちについて話し合う。(15分)

    「海鳴りとも風ともつかぬうなりがどろどろとひびく」(P.23 L.9)までを読み聞かせます。ここまでは、比較的状況をきちんと描いており、分かりやすくなっています。

    発問1「前へも後ろへもいけない少女はどんなことを考えていたでしょうか?」

    @このまま、動けなくて、悪くすると川に落ちるなど命の危険がある。Aしばらくは、じっとしておくしかない。B先ほどのバスの主婦の助言にしたがっておけばよかったと公開している。C何も考えられないくらい切羽詰まっている。などの意見が出ます。ここでは、それぞれの考えを意図的に対比して比較検討するなどの活動は行わず、少女が、この時、相当程度困っている、大変な状況であることを共通理解します。

 

B    「そしてわかった」とは何が分かったのか話し合う。(10)

    最後まで読み聞かせます。場面の状況が大きく変化しますので、しっかり聞かせることが重要です。

    発問2:「少女は、足もとのあやうさを忘れてその飛翔をみまもり、そしてわかった』とあります。少女は、何が分かったというのでしょうか。少女の立場になって考えてみましょう。」

    この活動は、かなり難しいことから、子どもたちの反応が十分ではないことが予想されます。その解決方法は二つあります。一つは、小グループにして、各自が言いたいことを言いたいように話すことができる場と時間を保障して学習を活性化すること、もう一つは、比較的自分の考えをまとめることが容易な子どもを意図的に指名して、三、四人の意見を出させながらそれを丁寧に広げて行くという方法です。

    取り組みやすいのは、小グループによる話し合いですが、学習を進めたり、深めたりできるのは後者の方です。前者は、担任ではコントロールしにくく、話すことはできても課題に迫る話し合いにはなりにくいからです。

    @(叙述に即して)あれこそ(鳥の飛翔こそ)生きていることだと分かった、A無益とも思えるその前進のために、あらんかぎりの力をふりしぼって、ひたすら風にさからいつづけることがすばらしいことだと分かった、B鳥たちが一瞬ごとにからだの平衡を失いながらも北へと進もうとしていることが分かった、Cまっこうから吹きつける風に突っ込んでいくことがすばらしいことが分かった、などの意見を引き出します。

 

C    少女の気持ちの変化を比較して話し合う。(10)

    発問3:「気持ちが変化した少女のことをあなたはどう思うか?」

    答えにくい発問です。子どもの反応がすぐに出ないからと言って、教師が話しすぎてはいけません。沈黙を味わうことが必要です。

    「どう思うか?」に対する答えは、「納得‐非納得」「よい、悪い」「賛成‐反対」「何かを感じる‐何も感じない」などがあります。ここは、どれでもいいので、子どもたち感じたこと思いを引き出します。どれでもいいというのは、どれを出しても、否定的な意見は出ないと思うからです。

    いろいろな意見を引き出した後、(少しずるいとは思うのですけど、どんな意見が出ようとも……)「少女は、風に向き合う鳥を見て、その力強さ、生きる望み、頑張る気持ちなどをしっかりと感じ取ることができたのですね。」とまとめます。

    そして、「生きるとは、『無益とも思える自分自身の前進のために、あらんかぎりの力を振りしぼって、希望や夢に向かって突き進むこと』とまとめます。

 

D     自分の夢や希望、それに向けた努力についてプリントに書く。

※ 改めて自分の夢を考え、その夢に向けて、現在何を努力しているのか自分の生活を振り返ってプリントに書きます。

※ どんなことを書いても、それはそれとして認めます。

※ 教師の子どもの頃の夢を実直に語ります。(たまに、教師が自分を悪く見せようとして、中学校の頃、あまり努力していなかったことや、いい加減だったことをあたかもすごいことのように語る人がいますが、それは、ちょっとやめて欲しいです。自分の子どもにだけ語って欲しいと思います。クラスの子どもには、あくまでも、中学校の頃、迷いながらも精一杯生きていたことを伝えて欲しいと思います……。