有国遊雲君の生き方から

いのちについて考える

 道徳の副読本教材には採用されていないと思われますが、いつか掲載されたらいいなと思える内容・題材です。

 今回もまた、新聞記事を授業化です。

 

【対 象】中学校

【ねらい】 有国遊雲君の最期の言葉のもつ意味について話し合うことを通して、周りの人の支えに感謝しつつ、命ある限り懸命に生きることの尊さを改めて感じ取り、自分自身が精一杯生きようとする心情を高める。3-(1)

【学習内容】

(1)有国遊雲(ありくに ゆううん)君の生き方

        小児がんとの壮絶な戦い

        小児がん未適用の抗がん剤治験を希望する意味

        感謝の辞世

(2)「感謝と精一杯」を観点にした自分の生き方についての振り返り(感想)

        いままでの自分の生活

        これからの自分の生活

 

【資料】

    「感謝伝えて…がん15歳 死の前夜に『ありがとう』」

   朝日新聞2006年12月20日付け朝刊記事

    この新聞記事は『心がぽかぽかするニュース HAPPYNEWS 2006』(社)日本新聞協会編 文藝春秋 に掲載されている。この図書には、道徳の時間に扱える新聞記事が満載。一読を。

http://7andy.yahoo.co.jp/books/detail?accd=31932077

 

    小児がんと3年間向き合った山口県周南市鹿野中学校3年(当時)の有国遊雲君の記事。主な内容は以下。

        右足のすねに腫れ物ができたのは小学6年の9月。手術に化学療法、大量の抗ガン剤。

        3の4月、右足のがんが再発。「縁が切れるなら」と切断にのぞんだが、5月末には肺や骨盤へ転移。「出口と思ってドアを開けたら、まだ道がある。」

        6月、国立がんセンター中央病院の一室。住職でもある父智光さんが、遊雲君に語りかける、「よくなることは期待できない。死んでいくことがどういうことか考え始めよう」。

        「つらいものから目をそらすのはまやかし。どんな状況でも今をいとおしく思って欲しかった。」智光さんも苦しみ続けた。

        抗がん剤が効かなくなりつつあった遊雲君が望んだのは、小児がんに適用されていない抗がん剤の治験。「支えてくれた人に何が返せるか。世の中の役にたちたい」。

        11月痛みを抑えるだけの治療に切り替わり、酸素吸入も欠かせなくなった。12月2日未明、付き添っていた母美恵子さんの手を握りしめ、「もういいよ。お母さん、ありがとう。みんなにもありがとうって言ってね」。夜、「ぼくは往きます」と言い残し、3日午前、息を引き取った。

 

【学習過程】(50分授業)

@        遊雲君の河川愛護の標語を聴き、作者について感じたことを発表する。(5分)

        発問1:「ある中学生が作った標語に『川が好き 川にうつった 空も好き』というものがあります。どんな中学生が作ったと思いますか?」

        作者について関心を高めるために行う活動なので、標語の意味などについては詳しく触れない。「自然が好きな中学生だろう。」「優しい心をもった中学生かな?」「川にうつった空が好きだというのは、興味引かれる表現だ。」など、4,5の自由な感想を出し合う。

        そして、「今日は、この標語を作った中学生 有国遊雲君の生き方から『命』について学びましょう。」と大まかな課題を提示・板書する。

        導入は短時間で行い、すぐに資料提示へ。

 

A        「新聞記事」を読んで話し合う。(35分)

        記事を読んだ後、上記「記事概要」のように出来事を短冊にまとめて時系列に整理して板書し、内容理解を促す。家族にがん患者がいる生徒や家族をがんで亡くした生徒がいる場合は、この授業を行わない。

        発問2「右足切断後、再発。遊雲君はどんな気持ちから『出口と思ってドアを開けたら、まだ道がある。』と述べたのだろうか。」

        遊雲君の気持ちを共感的に理解することは、大人だって難しい。子どもに対しても、遊雲君の気持ちを簡単に理解できるなどと思わせないことが大切で、だからこそ、新聞記事から誠実に感じ取れることが必要。(1)「化学療法等の副作用のつらさ」「手術の痛み」「右足切断の痛み」など、がんとの戦いがこれからも継続することへの怒りや不安。(2)「なぜ、自分だけが…」「本当に直るのだろうか…」「自分は死んでしまうのでは…」などの心の負担が継続することの怒りや不安、(3)級友や家族などに対する思いなど、社会的なつながりを絶たれてしまいそうな憤りや不安、などを想像する。言葉にすると短くて、うまく表現できないと思われるが、言葉や体験などを足場にみんなでイメージを広げて、遊雲君の気持ちを想像させるしかない…。

        「遊雲君ははじめ、『出口』の向こうに何があると思ったのだろうか」や「ドアの向こうにあった『道』とは何だろうか」などの補助発問を用いるのも効果があるかも。共感の向こうにある『感受』『納得』が得させられればいいのだけど…

        発問3「遊雲君が亡くなる前に言った『ありがとう』に込めた気持ち、意味は何だろうか。」

        「家族が精一杯、治療してくれたことへの感謝」、「医師や看護婦さんなどへの感謝」、「級友や先生などへの感謝」、「今まで生きてきたことそのものに対しての感謝」など、感謝する対象と理由を押さえる。そして、感謝しているからこそ、「自分でも何かできることはないかと考え、未適用の小児がんの薬の治験を行ったこと」を理解させる。想像を超えた苦しさがあっただろうことをイメージ豊かに感じ取らせることが大切。一番苦しかったのは、自分以外にないのに、「ありがとう」という感謝の気持ちをもてることに素直に感動できるといい…

        発問2で話し合った「憤りや不安」と発問3で出し合った「感謝や精一杯生きたことへの満足感(と言ってよいかどうか分からないけれど…)」を対比して板書し、「みなさんならこのような心情になれるだろうか」などと問い返すことで、その変容の大きさ・すごさを捉えさせ、遊雲君の生き様の尊さ、すばらしさ・偉大さを感じ取らせる。あるいは、対比した後、「何が、このような気持ちの変化をもたらしたのだろうか」と問うてみるのもよいかもしれません。

 

A        遊雲君のように「感謝と精一杯の生き方」を観点に自分の生活を振り返って、感想をプリントに書く。(10分)

        発問4「みなさんは、遊雲君と同じように、今生きていることや周りの人々に支えられていることに感謝するとともに、精一杯に生きているでしょうか。今までの生活を振り返って、また、今後の生活を見通して、今日の授業の感想をまとめてみましょう。すごく具体的でもいいし、大雑把にこんなことがあると思い出してもいい。少し時間をとるので、プリントに書いてみましょう。書けなければ、考えるだけでも構いません。」

        全校で、遊雲くんのお父さんのお話を直接聞く機会をもつことができるとするなら、一層子供たちの心に残ることでしょう。その場合は、お父さんの気持ちに焦点を当てた道徳の授業も可能かもしれません。