山田洋次「わき役の力」で

役割と責任について考える

 教育出版の中学校3年の副読本教材には採用されている心打たれる話です。教師のこの感動が子供たちに伝えられるといいのですが…

 

【対 象】中学校3年生

【ねらい】 山田洋次「わき役の力」にあるわき役や衣装さんの努力について話し合うことを通して、自分が所属する様々な集団の中での役割や責任に改めて気付き、よりより集団生活に寄与しようとする積極的な態度を養う。4-(1)

【学習内容】

(1)映画「寅さん」のわき役のきめ細かい努力や工夫

        技術的に高い芝居(主役の存在感を浮き立たせる効果)

        「お兄ちゃん、待って!」(妹さくら)、「お兄さん、ぼく、謝ります。」(博)の効果

        衣装団がシャツやブラウスを俳優に渡すときの苦労(俳優のために働くのではなく、よい演技、よい映画作りのために働く行為)

(2)集団の中での友達や自分の役割とそのよさ

        例えば、文化祭や合唱祭(学級集団)での自分(あるいは、ある友達)の役割とそのよさ

        例えば、部活動での自分(あるいは、ある友達)の役割とそのよさ

 

【資料】

    「わき役の力」『中学道徳 心つないで』

(平成19年度版 教育出版株式会社)

        映画の主役は、あまり演技がうまくない方がよい。下手でもうまいわき役に支えられれば大丈夫だし、少し下手な方が、観客がその人物に感情移入しやすいからである。

        寅さんの場合、いかに渥美清が傑出した俳優であろうと寅さんというキャラクターは決してひとりの力ではできない。わき役が大切である。

        大げんかして「俺は出て行く!」と叫んでカバンをもって出て行ってしまうことが毎回のようにあるが、実際には、様々な準備をしなければならないので、映画のように急に出て行くことはできない。

        しかし、それが自然に感じられて、観客にさわやかな味わい、憧れを感じさせることができるのは、その状況を支えるわき役の努力があるからである。上述学習内容(1)のさくらや博の言葉や演技なのである。

        役者だけでなく、このことはスタッフにも言える。例えば衣装さんは、新品のまだ袖を通していないシャツやブラウスを新しい衣装だという印象を俳優に与えないように苦労するという。新品だなと意識させて着させてしまうとその意識が芝居にまで影響するからである。

        スクリーンに活躍するのは主役だし、タイトルに出るのは監督だけど、実は陰にかくれた大勢のわき役の人こそ、映画を作る主人公なのである。

 

http://www.kyoiku-shuppan.co.jp/index.html

http://www.shochiku.co.jp/web-event/atsumi/

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4122016150.html

 

 

【学習過程】(45分授業)

@        資料を聞く。(10分)

        時間が十分ないので、一般的な導入はしない。

        もし、ゆとりがあれば、(1)映画の「男はつらいよ」の一場面を見せて(もちろん、「俺は出て行く」の場面)映画や寅さんシリーズへの理解を図ったり、(2)最近観た映画を紹介し合ったり、また、(3)部活動や学級での自分の役割について少し考えてみたり(これは、展開後半でも出てくるので、しつこくなるけど…)して、資料へつなぐ。寅さんシリーズをあまり知らない子供たちなので、(1)が有効かな?と思います。レンタルショップにも必ずありますからね。

        資料を読み聞かせる。内容理解のために、2回くらい読むことが必要かも知れません。ただし、「衣装さん」の逸話の前まで。ここまででも、十分通常の資料と同じようなまとまり感があって、資料を途中で切っているようには感じさせない。きちんと読み聞かせるだけでも10分程度かかる。

        読んだ後、「今日は、集団の中での役割について考えてみよう」と大きな課題を板書する。(中学校なので、この課題提示が「うっとうしい」と感じさせるようなら、予め示さなくてもいい。資料にはそれだけの力がある)

 

A        わき役やスタッフの役割やよさについて話し合う。(25分)

        発問1:「『お兄ちゃん、待って!』『兄さん、ぼく、謝ります。』などのわき役は、具体的にどんな役割を果たし、映画のストーリーにどんな効果やよさを発揮しているのだろうか。上手な場合とそうでない場合を想像して、考えてみましょう。」

        内容理解に関する発問なので、書いたり、グループで話し合ったりしない。少し考える時間をとった後、挙手あるいは、指名して、その子どもなりの解釈、受け止めを発表させる。

        (1)「下手だったら、寅さんの自由な振る舞いが、不自然で突飛な感じがしてしまう」などの、主役の演技を支えるという視点、(2)「主役の演技が自然に感じられるので、観客に主役への憧れやさわやかな味わいを感じ取らせることができる」という観客への視点の二つを押さえる。

        この時、「映画もオーケストラもチームワークで成り立っている、とあるが、このようにわき役は具体的な行動を真剣に行うことによって、チームを支えているのである。チームワークとは、心情と具体的な行為によって保たれるのである」と一旦まとめてしまう。

        「もう少し、具体的な行為について考えを深めてみよう」と投げかけ、はじめの資料提示の時に読まなかった「衣装さん」の逸話の部分のさわり「間接的に聞いたことだが、彼の仕事の上での苦労にはこんなことがあるそうだ。」までを読み、「衣装さんは、打合せに従って決めた衣装を、実際に撮影するに当たって、俳優に渡すのだが、その時、苦労する・工夫することがあるという。」と述べ、次のように問う。

        発問2「衣装さんの苦労とは何だと思いますか?」

        衣装さんの立場に立って「チームワーク発揮(すなわち、自分なりの役割の自覚と責任の具体的な果たし方」について様々意見を出し合ってみることがねらい。

        答えを当てっこするような雰囲気になると、活動が他人事になってしまう。何とか、切実感をもって考えさせたい。「もし、あなたが映画の衣装係であったとして、自分なりの衣装係としての役割と責任をしっかり果たしたいと考えたなら、どうしますか?」などと問うか。それでも、なかなか役割取得させることは難しいかも。「そうする理由を添えて発表させる」のは、最低限必要。

        (1)着やすいように順番を考えて渡す。(2)夏なら衣装を冷やしておく、冬なら温めておく。(3)衣装を渡すタイミングを考えて渡す。(4)衣装を渡す場所を考えて渡す。(5)衣装を渡す俳優さんの順番を考えて渡す。などが出るかな。理由とすれば、(1)スムーズに撮影に入れる、(2)俳優さんに余計な気を遣わせない、(3)演技が際だつなどの理由が出るだろう。

        続きを読む。「新品のまだ袖を通していないシャツやブラウスであっても、新しい衣装だという印象を俳優に与えないように苦労する」、「何度も選択したものだという感じで、すっと渡す、そこに苦心がある」。理由は、「シャツを新品だなと意識して着るとその意識が芝居にまで影響していく、と彼は言うのだそうである」

        おそらく子どもたちの考えは、一義的には「俳優にとってよいこと」で、この衣装さんの考えは「演技にとってよいこと」なのである。補助発問として、「みなさんの考えとこの衣装さんの考えの違いはどこか。」と問うてもいいかもしれない。そして、衣装さんは、俳優のために働いているのではなく、よい映画作りのために働いているのだという自覚とそれに基づいた具体的な行動の仕方を身に付けているのだと、感じ取らせたい。先のわき役の演技が、主役のためだけではなく、観客のためであったと同じである。

 

B        自分なりの考えを温める。(10分)

        発問3「みなさんは、学級や部活でどんな役割を果たしていますか。また、学級や部活で友達がどんな役割や責任を果たしていますか。どんな役割ができるようになるといいでしょうか。友達の役割やよさに気付くだけでも価値あることです。少し振り返ってみましょう。学級や部活の役割を考えるとき、もう少し、状況を具体的にすると考えやすくなります。例えば、学級での役割という場合は、体育祭や文化祭、合唱祭などの時のあなたの、また友達の役割、部活の時は、普段の練習の時、試合の時、また、下級生に対する場合などです。少し時間をとるので、プリントに書いてみましょう。書けなければ、考えるだけでも構いませんよ。」

        子供たちに期待する気持ちを話して聞かせるのもよい。