「ウサギとカメ」の続き物語で

「互いに高め合う力」

 道徳の時間に用いる読み物資料は、掌篇である必要があります。

今回使用する書籍の「あとがき」には次のように書かれています。

「朝起きて新聞を開いたら、暗いニュースに沈むばかりではなく、一日を元気よく過ごせるような企画はないものか。そんなことを考えているうちに生まれたのが、手足れの作家による一回読み切りの『子どもに贈るショートショート』だった。原稿は、四百字詰め原稿用紙できっかり三枚。と、執筆する先生方にはお伝えした。平成十年七月二十八日付から産経新聞生活面の児童書コーナーに登場。毎週火曜日掲載で、同じ作家の再登場はなく、十三年三月いっぱいまで続いた。」(下記同掲書)

 その中の一つ、童話作家「さなともこ」さん作の「カメの反省」を使った授業提案です。

                                     

【対 象】 小学校中学年から中学生まで幅広くできます。ここ   では、中学校での実践として書きましょう。

【ねらい】 おたがいの数字をのぞき見て『すごーい!』と声をあげたときの気持ちを話し合うことを通して、友情の尊さを理解して心から信頼できる友達をもつことのよさに改めて気付くとともに、互いに励まし合い、高め合おうとする態度を養う。2−(3)

【学習内容】

(1)友達のよさに気付くこと

        うさぎの速さ(時間の短さ)

        かめの粘り強さ(歩数の多さ)

(2)互いに高まり合おうとすること

        自分と友達のよさ(努力していること)

        よさを示す態度や行動

 

【資料】「ファンタジーの宝石箱 vol.1 人魚の鱗」

全日出版株式会社 2004.9

人魚の鱗 (Short Fantasy Stories ファンタジーの宝石箱)

 

   (寓話「ウサギとカメ」の続き話として書かれている)

   @寝ていたうさぎを起こさなかったことを後悔したカメは、再競走を申込んだ。ウサギは、寝ることなく早々とゴール。自分のペースでゴールインしたカメは、途中道端で摘んだ一輪の花をウサギに差し出し、「やっぱり、きみのほうがずっと早かったね」。

Aウサギが身に付けていたストップウォッチとカメが身に付けていた万歩計、それぞれをのぞき見て、「すごーい!」と同時に声をあげた。(これは、最後の3行です。)

   (この授業は、@とAを分割提示します。)

 

【学習過程】(50授業)

@        寓話「ウサギとカメ」を紹介する。(10分)

        「みんな知っているとは思うけれど…」として、再度「イソップ寓話 ウサギとカメ」を読んで聞かせます。絵本をそのまま、あるいはOHCで提示しながらでもOK。

        寓話なので、教訓である「自信過剰で油断をすると物事に失敗してしまう。逆に歩みが遅くとも、着実に進むと、最終的に大きな効果を得られる」などを「感想」として引き出します。

        教師の方から、「カメが、寝ていたウサギを起こさなかったのは、フェアーじゃないような気もするけどどうかな?」と話し、「今日は、ウサギを起こさなかったことを後悔しているカメの続き話を用いて道徳の授業をしましょう」と投げかけます。

 

A        資料を読み、「道端の花を一輪摘んだときのカメの気持ち」を話し合う。(15分)

        資料@提示(5分)。資料そのものが非常に短い上に、最後の「2行と4文字分」は次に提示するのでので、所々で話を切りながら、感想を拾うことができます。それでも10分はかかりません。

        発問1:「競走の途中に、『ふと、あることを思いついて、道端の花を一輪摘んだ』カメは、どんなことを考えていたでしょうか。想像して話し合ってみましょう。」(10分)

        (1)ウサギに負けることは間違いないので、ゴールしたら、ウサギの勝利(速さ)を祝うため、花をプレゼントしようと考えた。(2)ウサギはきっと、とっても長く自分を待っているだろうから、そのお詫びの気持ちも込めて、花をプレゼントしようと考えた。(3)負けが決まったような状況の中で、最後まで走り(歩き)続けることの意味はあまりないので、最後に花をプレゼントすることを「めあて」にして、「あきらめないで」最後まで走ろうと考えた。などの意見を採り上げ、板書する。

        「カメは、ウサギに負けることを確信した上で、やはり最後まで走ろうとしたのは、自分から勝負を申し込んでいるとはいえ、なかなかすばらしいね」と教師の方から「軽くまとめ」ておきます。

        「みなさんがカメなら、どうするだろうか」「最後まで歩き続けますか?」などと問い返したりして、自分のこととして少し考えさせ、「実は、この話には、最後ちょっとだけ続きがあるんですよ。」として、資料Aを提示します。

 

B        資料Aを聞いて、「すごーい!」と言い合った時のウサギとカメの気持ちを話し合う。(15分)

        資料提示A(1分)

        発問2:「『すごーい』と言い合ったときのウサギとカメはどんなことを『すごーい』と言ったのでしょうか。それぞれの気持ちを想像して話し合おう。」(14分)

        カメは、ウサギのタイムがとても速かったことに「すごーい!」と言い、ウサギは、カメの歩数がとっても多かったことに「すごーい!」と感心した、意見を引き出します。概ねほとんどの子どもが気付く内容だと思いますが、それを敢えて、様々な子どもに「自分の言葉で」話させます。

        そして、「カメは、ウサギの何倍くらいの歩数だったろうかね」とか、その逆の「ウサギは、カメの何分の一くらいの時間でゴールしたのだろうか?」などと問い返しながら、教師も一緒に驚きながら、ウサギとカメそれぞれのよさを膨らませます。

        最後に、「友達それぞれのよさを互いに認めるためには、そのよさを積極的に『見付け合う』ことが必要になります。身近な友達のよさを見付け合い、自分を高め合えるといいですね。」とまとめます。そして、

 

C        自分の生活を振り返る。(10分)

        発問3「あなたの中にカメのような『友達のよさを認め、それを讃えようとする気持ち』がありますか?また、『自分が頑張りたいこと』がありますか? プリントに書きましょう。」

 

D        教師から話をする。(2分)

        「人は、時にウサギの場合が、そして、時にカメの場合があります。どちらの立場にあるときでも、腐ることなく、また、威張ることなく、謙虚に『友達に学び』成長していきたいものです。『自分のペースを楽しみながら』ね。」

        「ウサギは足が速いのでストップウォッチというものさしが相応しかった、カメは粘り強いので万歩計というものさしが相応しかったのですね。皆さんのよさは何ですか?そしてそのよさを計る「ものさし」は何でしょうか。あなたの周りの友達のよさは何ですか?そしてそれを知る(計る)ものさしは何でしょうか?自分のよさ、友達のよさは、それを表し示す何かとセットで見つけ出すものかも知れませんね。」

        「○○さんのよさは人柄が明るいことです。そして、それがわかるのは、○○さんの笑顔です。○○さんにとっての「ものさし」は「笑顔(という態度や行動)」ということですね。□□君のよさは頑張り屋だということです。それは、学校も部活もさぼらないしいつも一生懸命だということで分かります。休まないその事実(態度や行動)が□□君のよさを示す「ものさし」ですね。みなさんのよさとそれを表す「ものさし(態度や行動)」は一体なんでしょうか。」