読むクスリ

正直の頭に神宿る

 「週刊文春」連載の「読むクスリ」をまとめた単行本が出ています。どれも考えさせられる内容のものばかりです。道徳の教材としても使えるものがたくさんあります。以前

http://sakamoto.cside.com/sakamoto2006/dodgeball.htm

というのを書いたことがあります。

 今回は、「相手の立場に立って、誠実に仕事をする」に関する心温まる話です。

 

【対 象】 中学生なら、何年でも。(小学校高学年でもできます)

【ねらい】 タイヤに傷がついているから1本タイヤを売ってほしいというお客の要望を、スペアタイヤとの交換という方法で叶えた若い従業員の考えについて話し合うことを通して、客(相手)の立場に立って、仕事をすることの大切について改めて気付き、誠実に生きようとする心情を高める。1-(3)

【学習内容】

(1)店の若い従業員のお客に対する配慮(よさ・すばらしさ)

        使用に支障のないタイヤだが、あえてスペアタイヤに交換して不安を和らげようとしたこと

        ホイールを交換したスペアタイヤを使用することで見た目をよくし、お客の要望に応えたこと

        相手の立場に立って(問題を解決するのに安価に行うこと)仕事をすること

(2)誠実に生活しているかどうかに係る「普段の自分の生活」の振り返り

        普段の学校生活(清掃や係・委員会・部活動等での仕事)

        家庭での生活(手伝いや学習等)

 

【資料】『正直の頭に神宿る』 上前淳一郎:作
      (「読むクスリ30」2001.9.1 文春文庫 所収)

地獄と極楽の違い―読むクスリ〈30〉

        『イエローハット』の佐賀・伊万里店に40代の紳士が立ち寄った。「タイヤに傷が付いている。長崎に帰るために1本新品と交換してもらえないか?」

        店の若い従業員が確かめると、傷ではなく汚れのようなもの。このまま使っても支障はない。

        しかし客は不安だろう。そこで、スペアタイヤと取り替えることを提案。客は、スペアタイヤは、応急用だし、ホイールが違うと取り替えを渋った。

        ゴムの部分は同じだと教え、スペアタイヤのホイールと今のホイールを交換することにした。請求したのはわずかな交換の工賃だけだった。

        長崎に帰った客は、このことに大変感激して、「新品のタイヤを買いたい、と客の方でいっているのだから、黙って一本売れば、そのほうがよほどもうけは大きかったはずだ。ところが、若い従業員はそれをせず、わざわざ手間をかけて、客の負担が軽くなるように計らってくれた。」とお礼を述べるとともに、自分の会社の営業車用のタイヤ104本を注文し、全額、現金で支払った。(PP.19-22)

 

 

【学習過程】(50授業)

@        資料(1)を聞く。(10分)

        資料提示の前に、「正直の頭に神宿る」と板書する。内容や意味については触れないで、「今日は、この諺に関連するとても温かいお話を使って、学習しましょう。」と投げかける。

        資料は、(1)タイヤを交換するところまで (2)紳士からお礼の電話があって、104本のタイヤの注文があったところまで (3)値引きなど要求せず、全額現金で払った最後の場面まで、の3つに分ける。

        ここでは、(1)だけを読み聞かせる。

 

A        店の若い従業員のよさについて話し合う。(15分)

        発問1:「若い従業員のよいところはどんなところだろ思いますか?」

        (1)長崎まで帰るのに支障のない程度の傷(汚れ)でしかなかったが、わざわざ、スペアタイヤと交換して、お客の不安を取り除いたこと (2)スペアタイヤと交換するときに、@現在使用しているホイールとスペアタイヤのホイールとを交換して、見た目が悪くならないようにしたことと、Aスペアタイヤのゴムの部分は、通常の今使っている4本のタイヤのゴムの部分と同じであることをしっかり伝え、お客の不安(長崎までの高速運転に耐えられないのではないか…)と不満(ホイールが違って見た目が悪い)を取り除いたこと (3)客への請求がわずかな工賃だけであったこと などをそれぞれの子どもなりの表現に沿って、引き出しまとめる。そして、(4)客の気持ちに寄り添い、できるだけお客様のためになるような接客をしたことがよいところだね」と分かりやすく板書し、その内容を共通理解する。

        その際、@「お客の金銭的な負担を少なくするためだけなら、『このタイヤの傷は、パンクするような傷ではなく、汚れに近いもので、今後も十分使用することができます』と説得することもできた(つまりスペアタイヤと交換しない)はずだが、そのように説得するのと、スペアタイヤと交換するのとでは、お客の気持ちはどう違うだろうか」や、A「1本売った方が、お客さんの安心感にはずっと高かったのではないか、1本売るのと、スペアタイヤと交換するのと、お客さんの気持ちはどう違うだろうか」などと、問い返しをするのもよいかもしれない。いずれにしても「客にとって最善の方法を考えている」ことに気付かせることが重要。

 

B        資料(2)の部分を読んで、お客の感謝の気持ちについて話し合う。(15分)

        発問2「お客が104本のタイヤを注文したのはどんな気持ちからだろうか?」

        (1)スペアタイヤに交換してもらったことへのお礼の気持ち (2)わざわざ手間をかけて客の負担が軽くなるように計らってくれたことに感動する気持ち (3)いいお店が繁盛するような世の中になってほしいという気持ち (4)自分の仕事に誠実な「店の若い従業員」を応援する気持ち (5)誠実な従業員や店、会社を応援する気持ち などが出てくるので、(1)〜(5)のように、ある程度考えを括る。

        発問3:「これらの考え全てに共通しているのはどんな気持ち(思い)でしょうか?」と問い返して、「相手の立場に立つことの大切さ・誠実に仕事をすることのよさへの感謝」を引き出す。「感謝」とまでいかなくても、「相手の立場に立つことのすばらしさ・大切さに改めて気付かされましたね。」とまとめることは必要だろう。これが、本時の「自己評価観点」。自己評価観点については、本Webに説明しているところがあるので、参照してください。(平成15年2月頃)

C        今を考える、今までを振り返る。(10分)

        発問4「今のあなたには、普段の生活の中で、『店の若い従業員』のような部分があるでしょうか。きっとあると思うのだけど、学校生活や家庭生活を振り返って、自分の中の『若い従業員』(相手の立場に立って仕事・役割を果たしている行動や気持ち)を見付けてみましょう。」プリントに書いたり、二人組で話し合ったりするのもよいが、なかなか活動にならないと思われるので、5分程度静かな時間をもつだけでよい。

        最後に資料(3)を読み聞かせ、余韻を持って授業を終わる。

        「正直の頭に神宿る」の短冊を教室のどこかに掲示する。学級通信などで授業の様子について家庭に知らせる。