「算数・数学」のおもしろさで

真理を愛す心

【対 象】中学生

【ねらい】 藤原正彦氏のエッセイにある「算数のおもしろさ」「数学の美しさ」について話し合うことを通して、身近にある事象のおもしろさに気付き、真理を愛し、真実を求めながら生活しようとする気持ちを高める。1-(4)

【学習内容】

(1)藤原正彦氏が述べる「算数のおもしろさ」「数学の美しさ」

        新聞紙を26回折るとその厚さは富士山を越すこと

        新聞紙を42回折るとその厚さは月までの距離になること

        何本もの平行線を書いた紙の上から、その平行線の間隔の半分の針を落とした時、落とされた針が平行線のどれかに振れる確率がπ分の1であること

        読者F氏のチャレンジ

(2)身近な事象におもしろさを見出そうとする自分なりの関心

        好きな学問や趣味

        好きな理由やその楽しさ

 

【資 料 @】

『この国のけじめ』(藤原正彦 文藝春秋)所載

この国のけじめ

    「小学生に算数の面白さを伝えたい」(P.141-142 23行)

     著者が小学六年生に算数授業をした時のエッセイ。算数の面白さを伝えたいと考え、厚さ0.1ミリの新聞紙を繰り返し二つ折りにしていったときに、折る回数とその厚さについて考える授業をした。はじめは実際に演じて見せ、続きは計算で求める。はたして、わずか26回折っただけで、その厚さは、富士山を越え、42回折ると月までの距離になるという。

     

【資 料 A】

  『祖国とは国語』(藤原正彦 新潮文庫)所載

祖国とは国語

  (1)「数学は宝石箱」(P.110-111 19行)

     「数学の美しさを理解するのは容易である。例えば大きな紙の上に、同じ間隔で平行線を何本も引く。一方、間隔の半分の長さの針を用意して、紙の上からポトンと落とす。落ちた針は平行線のどれかにふれるか、どれにも触れないで平行線の間に横たわるか、のどちらかである。どれかの平行線に触れる確率は、数学によると、ちょうどπ分の1になる。すなわち3.14回落とすと1回だけ、針は平行線に触れることになる。314万回落とせば約百万回平行線に触れるということである。これは、美しい定理である。円とは何の関係もなりところに、円周率πが現れるのが意外であり、また確率がπ分の1と驚嘆すべきほど簡潔に表せるのが美しい。そのうえ、この事実が永遠に揺るぎない、というのも美に花を添えている。」

P.110 L.9-P.111 L.6)

 

(2)「この世は数学だらけ」(P.116-117 23行)

上のエッセイを読んだ読者が、コップに楊子を5本入れて実際に二千回落としてみると、π分の1との誤差は1%強だったという。著者は、「彼は(中略)すばらしい法則に独力でたどりつくところだった」と評すとともに、「針を放り投げるなどというくだらない現象にも美しい数学がつまっていたことになる。実はこの世のどんな現象にも数学がつまっている。しかもなぜか美しい。」と述べる。

 

【学習過程】(60分授業)

@        資料@を読んで話し合う。(25分)

        発問1「厚さ0.1ミリの新聞紙を繰り返し二つ折りにしていったとき、何回折るとどれくらいの厚さになるかについて考えてみましょう。」

        藤原正彦氏が行った授業と同じように子どもたちにやってみせる。はじめに実際に折ってみせる。8回折ると厚さは2センチメートル以上になる。これからは、計算でやる。

        2を10回かけると1024になることを黒板でやってみせる。「10回折ると元の厚さの約千倍になること」がわかる。11回で約二千倍、12回で約四千倍、などとやっていくと、26回折っただけで富士山を越え、42回折るとはるか月まで行ってしまうことを計算してみせる。

        子どもたちの感想を自由に発表させながら、ここでは、「算数っておもしろいね。身近なものを数字に関係付けて考えると、思いもよらないことが発見できるものだね。」とまとめる。

 

A        資料A(1)を読んで話し合う。(20分)

        資料を読むときに、「書かれている数学的な状況(平行線と落とす針の状況)」を実際に黒板に書いたり、または、実演したりしてみせる。数学の先生がTTで指導してくださると真実味が増してよい。

        答えを提示する前に、自由に予想を発表させるなどして、期待感や関心を高める。

        「答え:π分の1」を提示したのち、その具体「3.14回落とすと1回だけ、針は平行線に振れることになる。314万回落とせば約百万回平行線に触れるということ」を十分に理解させる。その後、次の発問。

        発問2「藤原正彦氏の言う数学の美しさとはなんでしょう。」

        (1)円とは何の関係もないところに、円周率πが現れること  (2)確率がπ分の1という、非常に簡潔であること (3)事実が永遠に揺るぎないこと である。「藤原氏の言う美しさ」と発問しているが、国語の読み取りではないので、藤原氏の主張点以外の「子どもたち自身の感じ方:数学の美しさ」が発表されても構わない。ここは、教師主導でてきぱきと進める。

        発問3:「藤原氏の述べていること(美しさ)が分かりますか。分かりにくいですか。」

        少しの時間、藤原氏の感じ方をみんなで感じ合ってみる。分かるとする子どもも、わかりにくいとする子どももいる。それでよい。教師は、共感的に理解しながら、板書上で少し整理するとともに、その理由を述べさせながら、少しでも藤原氏の主張点が理解できる(「分かる」「納得できる」「賛成できる」)ように子どもたちの気持ちや関心を高める。

 

B        資料A(2)を読み、自分なりの関心事について書く。(20分)

        発問4:「実は、話は、これで終わらないのです。この資料A(1)のエッセイを読んで、それが本当かどうか実際に実験してみた人がいるんです。」として、(2)を全員で読む。その後、「みなさんが好きな勉強や趣味の中に、「よさ」「美しさ」、あるいは、「感動していること」「おもしろいと感じていること」はないか、改めて考えてみましょう。例えば、『漢字の成り立ちを知って、今まで何気なく書いていた漢字に歴史や意味を感じ、一層漢字を勉強してみたくなった』とか『社会の歴史を勉強してみて、自分の住んでいる地区にある一里塚やお宮、お寺、地名などに興味をもつようになって面白さが増した』とか、いろいろあるのではないかと思います。少し時間を取って、考えてみましょう。」と問う。

        すぐには、書けないかも知れないでしょう。二人組やグループで話をしてみたり、教師が自分の経験を多く語ったり、身近な知識あれこれが書かれている書籍を紹介したりして、「今後、折に触れ考えてみるきっかけ」の授業となるようにする。

        博士の愛した数式 世にも美しい数学入門小川洋子『博士の愛した数式』、藤原正彦・小川洋子『世にも美しい数学』などを紹介するのもよいか。

        最後に、本時のねらいである「真理を愛し、真実を求めながら生活しようとする気持ちを高める」について、子どもたちの納得を得られるように話して聞かせる。

        なお、このような道徳の授業は、数学の発展学習の折に、それを導入にするなどして、連続的に扱うなどするのもよいかと考えられる。