携帯電話のマナーで

公徳心を考える

 

 NIE(教育に新聞を)の実践が盛んになっています。今回は、読者欄(投稿欄)を使っての道徳の授業です。NIEについては、

http://www.pressnet.or.jp/nie/nie.htm

を参照ください。

 

【対 象】 中学生(小学校高学年でもできます)

【ねらい】 優先席で携帯メールを打ち続ける20歳前後の女性とそれを注意する60代男性の気持ちを対比して話し合うことを通して、社会の規則やマナーを守ること、人からの注意を素直に受け入れることの大切さに改めて気付き、公徳を大切にして生活しようとする意欲を高める。4-(3)

【学習内容】

(1)20歳前後の女性と60代男性の気持ち

        携帯メールくらい構わないじゃないか(20代女性)

        ペースメーカーへの影響を考え、マナーを守れ(60代男性)

(2)公徳を大切にしようとする意志

        携帯電話とそれ以外のマナー

        それらに対する振り返り(自分の中の女性と男性)

 

【資料】「携帯メールで殴り合い寸前」 読者投稿
      (朝日新聞 声 2007/07/15 掲載)

        投稿者が午後10時頃私鉄電車で帰宅途中の出来事

        優先座席に若者が4名。うち20歳前後の女性が携帯電話のメールに夢中。

        前に立っていた60代の男性が「携帯を切らなければいけない所」と注意。その女性は無視。

        数回注意すると、逆ギレ。蹴るようなしぐさで「うるさい」。

        女性の隣の若い者や20歳代のサラリーマン風の男が「お前(60代の男性のこと)、うるさいんだよ」と激怒。

        少し離れた席から20〜30代の酔っぱらいの二人が「メールやってもいいじゃないか」などと参戦。60代男性に殴りかかりそうに詰め寄る。険悪な雰囲気。

        別の30代の男性が優先席付近での携帯電話のマナーを説明し、その場が納まる。

        この間10分余り。その女性はずっとメールを続けていた。

        投稿者が60代男性に「殴られてしまいますよ」と話しかけると、「二度あります」。大学教員だった。

        投稿者は、「この2週間でこんな騒ぎに2回出くわした。なんとかしないと大変なことになりはしないだろうか。」と結ぶ。

 

 

【学習過程】(50授業)

@        資料を聞く。(5分)

        いろいろな導入は、考えられます。例えば、(1)携帯電話の使用に関するデータやエピソード、感想等、(2)電車内でのマナーやそれへの感想等、(3)学校生活や家庭生活でのマナーやそれへの取組状況等

        Aでの話し合いに時間をかける方がいいので、まとまった導入は行わず、すぐに、新聞記事(投稿欄)を読む。

        場面絵があると非常に分かりやすいので、描ける人はそれを提示。端的に5分以内で導入を終了。導入が長い道徳の授業は失敗することが少なくない。

 

A        20歳前後の女性と60歳代の男性の気持ちについて話し合う。(35分)

        発問1:「20歳前後の女性は、どんな気持ちから、『うるさい』と逆ギレしたのだろうか。女性になったつもりでその時の心の中の言葉を発表してください。」(10分)

        この話程度の問題状況なら、わざわざプリントに考えを書かせる必要はありません。あらかじめ書かせないと自分の意見が持てないだろうからと、丹念にプリントに書かせる授業者は少なくありません。しかし、書かせるから、発表できなくなる場合もあります。どんどん指名していきながら、受容的な雰囲気の中で、様々に女性の気持ちを想像することにしましょう。

        (1)携帯メールをすることがだれに迷惑をかけているというのか?(2)誰にも迷惑をかけていないのだから、携帯メールくらい構わないではないか。に代表されるように、A「優先席付近で、携帯電話の電源を切らなければならないことを知らない」ことが原因の意見、(3)優先席に座っているのが悪いのか?(4)優先席に座っている若者はわたしだけではない、(5)おじさんが席に座れないのが悔しいの?などに代表されるように、B「優先席に座っていること」が原因の意見、(6)なぜ、こんな見ず知らずの人に注意されなければならないのか、(7)注意されるのはいやだ。注意する人は嫌いだ、など、C「単に人に注意されることがいやだということ」が原因の意見、などが出る。テンポよく発表させながら、それらをもとにさらにイメージを広げさせて、自由な雰囲気で発表させましょう。

        教師は、「なるほど、そういうこともあるかもしれないね」と受容することに努める。決して「いい意見だね」などと評価を加えてはならない。

        「その意見は、これまでに出されたどの意見と似ている?」とか「その意見は、このグループに入る意見だね」とか、「ほう、新しい考え方だなあ。Cというグループをつくることにしよう」などと、類別しながら板書する。

        Aについては、学級活動や短学活、学校行事等で学習した「携帯電話のマナー」について簡単に復習するというのもいいでしょう。(でも、時間はないですよね。というか、「携帯電話のマナー」について学んだ時に合わせて、この道徳をやるというのがいい。)(5分)

http://www.au.kddi.com/notice/manner/index.html

http://jr-central.co.jp/co.nsf/faq/faq0332101714

http://www2.health.ne.jp/library/5000/w5000515.html

 

        発問2:「60代の男性は、以前2度も殴られたことがあるにもかかわらず、今回も繰り返し注意したのは、どんな気持ちからだろうか。男性になったつもりでその時の心の中の言葉を発表してください。」(10分)

        (1)だれかが注意しなければ、このような若者たちは、社会のマナーやルールを知ることはない。(2)知っていても、それをきちんと守ろうとする気持ちにならない。など、A「大人の代表として使命感」から注意している、(3)社会のルールやマナーを守れるようになるのが、その人たちにとって、必要なことである、(4)若者の立場に立って、若者を思いやっている、など、B「思いやりの気持ち」から注している、(5)こんな無節操な若者が憎くて仕方ない、(6)情けなくてしかたない、などC「若者が憎い気持ち」から注意している、(7)ペースメーカーをつけている方の命を守る必要があるなど、D「生命尊重」の立場から注している、などを引き出す。

        発問1でも2でも、それぞれたくさんの意見が出た後、「どの意見に一番納得しますか」とそれぞれの子どもの気持ちや立場を確認する時間をとる。

        発問3:「20歳前後の女性と60代の男性はどんな違いがあるだろうか?『左は○○な人、右は□□な人』のように表現してみましょう。」(10分)

        「何を答えればいいのだろう?」と、しばらく発言がないでしょう。ここは焦らず(つまり、あれこれ、教師が言葉をつないで、「難しいかも知れないね」とか「どんな小さなことでもいいから発表して御覧」などと言わないで)、少し沈黙を味わい、その後、指名して、発表させる。評価を下さず、受容するのは今までと一緒。

        (1)「マナーを知らない人」と「知っている人」、(2)「定められたマナーを守ろうとしない人」と「守ろうとする人」(3)「人に注意や意見を受け入れられない人」と「人のために注意できる人」、(4)「ペースメーカーをつけている人の命を奪おうとする人」と「命を守ろうとする人」、(5) 「携帯電話を使う資格のない人」と「ある人」、 (6)「子ども」と「大人」、などが出てきます。

        黒板にいろチョークで対照的に板書し、女性の幼さと男性の勇気が際だつようにします。

 

B        自分の生活を振りかえる。(10分)

        発問4「携帯電話のマナー、それ以外の学校生活や家庭・社会でのマナーをあなたは守れていますか?あなたの中の20歳前後の女性と60歳代の男性を見付けてみなさい。」

        プリントに書くだけで授業を終える。

        学級通信などで授業の様子について家庭に知らせる。