「第27回全国中学生人権作文

コンテスト入賞作文」で道徳の時間

 「第27回全国中学生人権作文コンテスト入賞作文集」が平成20年3月7日に発行されました。法務省人権擁護局・全国人権擁護委員連合会によるものです。

 以前、このWebでも次のような授業を提案しています。

 

『梅雨に入った日』で公正、公平(H18年3月12日)

 

 今回は、この作文集の最後に掲載されている「一つの体験から学んだこと」(法務事務次官賞)を用いた授業です。

 

【対 象】 中学生

【ねらい】 筆者が祖母と車椅子の夫妻の言葉から気付かされたことを話し合うことを通して、「人との関係が相互活動である」ということへの理解を深め、互いに助け合い前に進もうとする態度を養う。2-(3)

【学習内容】

(1)私の道標について考えること

        助けを受ける側のがんばりや心持ちに目を向けること

        支える側の心を強くする助ける側の頑張り

        人との関係が相互活動であること

(2)自分の道標について考えること

        支える側としての自分

        助けを受ける側の存在

        相互活動の具体

 

【資料】「一つの体験から学んだこと」

岡山県・岡山白陵中学校 三年 渡邊真衣 作

第27回全国中学生人権作文コンテスト入賞作文集

PP.50-53 所収

 

        祖母の長年の夢である「群馬県 草津白根山に家族で登る」ことを実現させるため倉敷から訪れた作者一家。

        登山口で車椅子の男性を連れた奥さんとその息子二人の家族に出会う。同じように山頂を目指すという。

        想像以上に険しい標高二千メートル以上の登山道を、祖母を励ましながら、また、何度も休みながら、何とか頂上「湯釜」に到着。エメラルドグリーンの湖と真っ青な空、純白の雲、絶景である。

        同じように車椅子の家族もゴール。「家族のおかげでここまで来れました。」、車椅子の「お父さんが登る間中『大丈夫か』って私達を気遣ってくれたから登れたんです。」と涙ながらに話す夫妻。

        「私も、この子たちのおかげで登れました。」と答える祖母の言葉に「私達の方こそ、おばあちゃんのおかげで登れた」ことに気付かされる作者。「ハンディのある人たちにはこちらが一方的に何かしてあげなければ」と思っていた作者は、「今まで健常者の苦労だけが気になって、助けを受ける側の頑張りや心持ちには目が向いていなかった」、「今回、どちらの家族も、支える側だけでは登山口に立つことすら無かった」、「体力な無くても、相手に感謝し頑張ろうとする大きな存在は、支える者の心を強くし家族を登山口・絶景の頂上へと導きました。」と言う。

        「人との関係は、相互活動なのだ」「互いに助け合い、前に進む」という大切なことを作者はこの体験から学んだ、と述べる。

 

 

【学習過程】(50分授業)

@        頂上「湯釜」の美しい写真、険しい登山道、車椅子を見て感想を出し合う。(10分)

        (1)作者の祖母、車椅子の夫の奥さん、二人が「見たい、見せたい」と願った絶景の「湯釜」の風景、(2)険しい登山道、(3)車椅子の順に写真を提示して、それぞれに感想を引き出します。

        (1)では、その美しさを感じ取らせるとともに、それを家族に見せたいと考えた二人の気持ちに共感させる、(2)では、お年寄りでは登るのが難しいであろうことに気付かせ、その後、(3)の車椅子の写真を見せて、ましてや車椅子ではとても大変であることを感じ取らせます。

        資料提示をスムーズにするための導入なので、特に価値的なことについては取り上げません。取り上げていると「自然愛護」の方に行ってしまうこともあります。

        最後に、「この登山をした中学生の作文を読んで、自分の生き方、人とのかかわり方について考えてみましょう。」と課題の大枠を示して、資料を読み聞かせます。

 

A        登頂後の車椅子に乗っている男性の奥さんの言葉について話し合う。(30分)

        資料提示は10分程度あれば、十分です。

        発問1:車椅子の男性は、二人の息子や奥さんに車椅子を押してもらったり、車椅子ごとかかえてもらったりしながら、何とか山頂まで登ることができたのです。その奥さんが、作者の家族(特に祖母)に対して「父さんが登る間中『大丈夫か』って私達を気遣ってくれたから登れたんです。」と言っています。この家族が登れたのは、車椅子を押したりかかえたりした息子や奥さんの力だと考えるのが自然なのですが、奥さんはどのような考え(気持ち)からお父さんのお陰だというようなことを言っているのでしょうか。

        (1)お父さんが感謝してくれなければ、押したりかかえたりする気持ちにはならない、損した気持ちになる。(2)お父さんが押したりかかえたりされることを当然だという気持ちならあまりおもしろくない、(3)お父さんは、「大丈夫か」という声かけをすることが登山中の仕事である、(4)「大丈夫か」と声をかけることは、家族の登山にとって、車椅子を押したりかかえたりすることと同じほど重要な事柄である、などの意見が出るでしょう。

        (1)(2)と(3)(4)の二つに分けて板書した後

        発問2:「(1)(2)と(3)(4)の二つはどのような違いがあるでしょうか。」

        例えば、(a)前者は上から目線、後者は同じ高さの目線、(b)前者は助ける側と助けられる側、後者は互いに助け合っている(たとえお父さんは声をかけるだけだとしても……)などが出てくるでしょう。そこで、板書上で、二つの違いを「子供たちから出てきた言葉」を借りてまとめておきます。

        その後(もちろん、先ほどの二つの類別の違いを話し合うときに出てきたとしたら、それはそれでいいのですが、次の)作者の「今回、どちらの家族も、支える側だけでは登山口に立つことすら無かったでしょう。体力は無くても、相手に感謝し頑張ろうとする大きな存在は、支える者の心を強くし家族を登山口・絶景の頂上へと導きました」という言葉を短冊黒板(あるいは、画用紙の短冊)に書き、先ほどの二つの考えの違いについて理解を確かにします。

        また、(ア)「自分だけが、がむしゃらに進むのではなく、人と助け合って進むんだ。人と交われば自分一人では得られない宝物に出逢える」、(イ)「人との関係ってそういうものではなく、相互活動なのだという大切なことを、この登山から教わりました」、(ウ)「互いに助け合い、前に進むこと」の三つの言葉をみんなで読み、作者の気付きについて感想を出し合う活動を仕組むことも有効だと思います。それによって、一層価値内容に近付きます。(あくまでも知的な理解が中心となりますが…)

 

B        本時の感想を書く。(10分)

        「何でもいいので、書いてください」と指示すると、ねらいとする価値に向かわない子どももいると考えられます。

        そこで、

        「作者の言う『互いに助け合い、前に進むこと』についてどう思いますか?今までの自分の経験を踏まえて、自分なりの感想・考えを書きましょう」

        または、「『ハンディのある人にはこちらから一方的に何かしてあげなければ。』と思っていたとはどんなことを指しているのでしょうか、そして、一方的ではなく、『相互活動なのだ』とはどういうことだと思いますか、自分の体験を元にして具体的な場面や状況を想像して書いてみてください。」

        あるいは、「作者にとっての『私の道標』とは何か、そして、この授業から得たあなたにとっての『道標』とは何か、書いてください。」などの指示で、感想をかくとよいでしょう。

        学級通信や懇談会などで保護者に知らせるなどするとよいと思われます。