『いのちのうた』で親の愛

 

子どもは、本を読んでもらうのが大好きです。特に、低学年の子どもは好きですよね。

今回は、絵本を見せながら、読み聞かせCDで学習する事例です。

研究授業にはあまり向きませんけど、参観日の授業(親と話し合ったり、代表者に話をしていただいたりするのもいいです)や、普段のゆったりとした道徳の授業にはお勧めです。

普通に読むのに比べると、朗読CDが、そのBGMとともに一段と心にしみます。(CDを使わない場合は、授業には向かないかも知れません)

問題は、このCDブックが近隣の図書館などにあるかどうかです…

 

【対 象】 小学校1,2年生

【ねらい】 海に浮いている毒を水ごと飲み込むお母さんくじらの気持ちを話し合うことを通して、我が子を大切に思う母親の愛情の深さについて感じ取り、親への敬愛の念を育てる。4-(2)

【学習内容】

(1)毒を飲み込む母親の気持ちを考えること

        何としても子どもの命を守りたいという強い気持ち

        結果として自分が苦しんだり、死んでしまったりしても仕方ないという気持ち

(2)父や母に対する感謝、親を大切に思う気持ち

        親にしてもらった具体的な行為(思い出)

        その時の親の気持ち(GTまたは、教師から)

        その時の自分の気持ち

 

【資料】『いのちのうた』 文:村山由佳  絵:はまのゆか

付属朗読CD 朗読・作曲・演奏:村山由佳 
           (集英社 2000年10月10日)

(1)青いあおい海の底にくじらの親子が住んでいた。仲間は南の海へ。親子だけが取り残された。

(2)子どもが少し大きくなったので、親子は南の海へ移動を始めたが、都市の近くの汚れた海へ迷い込んだ。

(3)海の上一面に、毒が浮いており、住んでいたシャチなどは命を失っていく。

(4)母くじらは、意を決して、子どもと二人、この汚れた海から逃れるため再度、泳ぎ始める。

(5)子どもが息をしに水面に浮かぶ前に、母くじらが一面の毒を海水もろとも飲み込む。

(6)こうして、何日も泳ぎ切り、親子は透き通った海へ移動することができた。だが、母くじらは力尽きる。

(7)子くじらは、母親から教えてもらった歌を歌いながら、一人旅だった。

    CDを聞かせるだけで、20分程度かかることから、   考える場面は一場面のみの焦点化して授業します。もちろん、60分授業などの場合は、CD前半部分の母が教えようとする「うた」などについて話し合うことが可能です。

    参観日に行う場合は、親子で話し合う場面を設けたり、最後に、だれか代表でお話をしてもらったりできます。

    ここでは、普段の参観日の授業ということで書きましょう。

 

【学習過程】(45授業)

@        CDの前半を聞き、感想を出し合う。(10分)

        CDの時間が長いので、一般的な導入はしません。

        「今日は、くじらの親子のお話で道徳の学習をします。さっそくお話を聞きましょう。」とだけ話し、CDを聞かせます。

        絵本は、OHCでスクリーンに大写しにします。朗読に合わせてページをめくります。

        @では、都会の近くの海に迷い込み、母親が病気になってしまう場面(今にも死にそうなシャチと出会う前)までを聞かせます。

        ところどころで、CDを止めて、内容を整理し理解を確かにしたり、感じたことを自由に発表させたりしながら、「母くじらが子どもを大切にしていること」「子くじらが甘えん坊で、母くじらのことが大好きなこと」などを感じ取らせます。

 

A        毒を飲み込む母親の気持ちについて話し合う。(20分)

        CD後半、最後まで聞かせた後、毒を飲み込むところを再度提示して発問です。

        発問1:「お母さんくじらは、毒を飲み込むとき、心の中で、どんなことを考えていたでしょう。母くじらになったつもりで(できるだけ、いろいろな)気持ちや考えを想像してみましょう。」

        この話程度の問題状況なら、わざわざプリントに考えを書かせる必要はありません。あらかじめ書かせないと自分の意見が持てないだろうからと、丹念にプリントに書かせる授業は少なくありません。しかし、書かせることで、かえって意見を出しにくくする雰囲気が生まれる場合もあります。どんどん指名していきながら、受容的な雰囲気の中で、様々に母くじらの気持ちを想像することにしましょう。

        括弧書きにしているように、「できるだけ、様々な気持ちや考えを想像させる」ことが大切な場合もあります。多くの道徳の授業の場合、ただ自分が感じたままを発表して終わっている場合が少なくなく、(それはそれで構わない場合も多いわけですが、)自分がどう感じるかを超えて、その人物になりきって、つまり、その人物の中に入って、その人の気持ちを精一杯、全力で考えてみる、気持ちを想像してみることが大切な場合も少なくありません。

        (1)「一滴もこの毒を子どもには飲ませられない。」「触らせることはしたくない」など、ともかく毒から「子どもを守りたい」という強い気持ち、(2)「このまま自分が毒を飲み続ければ、自分が死んでしまうかも知れない」「自分が死ぬわけにはいかない」など、「自分の死」にかかわる思い、(3)「自分が死んだら、子どもがどうなるか分からないから不安だ」「自分が死んでも、この子だけはしっかり生きて欲しい」など、「自分の死後」にかかわる思い、(4)「二人とも何とか生きてゆきたい」「何としても生き延びるぞ」など、「二人の幸せ」を願う気持ちの4通りは出したいです。

        そのほかにも、(5)「こんなに海を汚したのは一体誰なんだ」「海を汚してはならない」など、「自然愛護」に関する気持ち、憤り、(6)「この汚れた海に住んでいる魚は、一体大丈夫なのかな?」「みんな生きているのかな?」など、「仲間を心配」する気持ち、もちろん、(7)「早くきれいな海に着きたい」「この海から早く逃げたい」など、「よい環境」を求める気持ちなども出てくるでしょう。これらは、今回の授業のねらいと密接に関わらないので、無理に引き出したり、強調したりはしません。

        特に(2)(3)の意見が出たときには、「自分が死んでも、子どもの命を守りたいなんて、本当に思うものなのでしょうか?」「あなたが母親ならそんなことができるでしょうか。」などと問い返して、母くじらの子どもを思う気持ちの大きさなどを感じ取らせることが大切です。

        そして、「みなさんのお家の人(この言葉をどう表現するかは子供たちの家庭環境の実態によります。「親」「お父さん、お母さん」などでもいいです。)も、同じように気持ちでみなさんを育ててくださっているのでしょうか?」と投げかけ(ここは、投げかけだけ)、次の学習活動につなげます。

 

B        母親の話を聞く。(10分)

        あらかじめ依頼していたクラスの母親のお一人から、子どもを思う気持ちや具体的な行為などについて話をしていただく。(1)子どもが小さい頃、病気をしてとても心配だったことなどの「特別な出来事とその時の親の気持ち」、(2)毎日、元気に学校に行って、学校から帰ってくるなど何でもない日々のことが心配だったり、うれしかったりする「日常の事柄とそのことへの気持ち」の2点を話していただく。

 

C        親へ手紙を書く。(授業の感想を書く)(5分)

        よくある手だてですが、授業の感想を「手紙風」にまとめるのが、低学年向けとしてはよいかと思います。時間があれば、親や家族からしてもらっていることをできるだけたくさん書かせたり、出し合ったりした後、授業やそれらされている多くのことへの感想を含めて、考えたことを書かせるのがいいでしょう。(時間がなければ、単に、授業の感想を書くだけでも構いません。)

        敬愛の念を押しつけるのはあまりいいとは言えないので、感じたままに書かせるのがよいかと思います。

        絵本と朗読CDが、何とも言えない、雰囲気をもっているので、「生死」を扱っていますが、読後感は温かいです。

        なお、この物語は、「自然愛護」あるいは「生命尊重」の観点からも扱うことができます。資料の特質及び低学年という発達特性から、今回は「親への敬愛の情」として授業化しました。また、中学校などで扱うとしたら、「母くじらが子くじらに教えようとした歌」の「母くじらにとっての、また子くじらにとっての意味、価値」を考えてみると面白いのかも知れません。大人でもなかなかその歌が、何を意味するのか分からないところがあります。