「デューク」で

「人間としての強さ・気高さ」

 2001年の大学入試センター試験の国語Iで、全文出題されたこともある短編小説『デューク』は、試験中に感動して泣き出す受験生を出したと言われます。若者の心を捉える「江國香織」です。

今回は、最近話題になることの多い「ペットロス」に、道徳の時間からのアプローチです。

生命尊重や動植物愛護などの内容項目でも指導できますが、ここでは、「人間には弱さや醜さを克服する強さや気高さがあることを信じて、人間として生きることに喜びを見出すように努める」3−(3)として扱います。

動物好きな子どもにはぴったりだと思うのですけど、あまり動物と触れ合ったりしたことのない子どもにどう受け取られるかはかなり疑問で、難しい指導だと思います。

 

【対 象】 中学生

【ねらい】 「そこに立ちつくし、いつまでもクリスマスソングを聴いていた」私が考えていたことを自由に話し合うことを通して、悲しみ(ペットの死)を乗り越えようとする主人公の強さを感じ取るとともに、気高く生きていこうという心情を培う。3-(3)

【学習内容】

(1)「私」の気持ちについて考えること

        デュークを失った喪失感(もう一度会いたい、飼いたい、暮らしたい、でもそれは叶わない、悲しい、どうしようもなく悲しい)

        デュークの死を乗り越えられるかも知れないという前向きな気持ち(デュークも「私」のことを愛してくれていたのだ。デュークは「私」を励ましてくれているのだ。「私」はデュークのためにもこれから生きていかなければならない。)

(2)強く・気高く生きることについて考えること

        人間には、悲しさを克服する力があること

        自分も強く・気高く生きる力(の芽)があること

 

【資料】「デューク」(江國香織 講談社 2000.11)

デューク

プーリー種という牧羊犬の飼い犬デュークが老衰で死んだ。泣きながらアルバイトに行く「私」は、ハンサムな少年と出会う。喫茶店、プール、美術館、落語など一日を一緒に過ごすことに。

最後、彼はデュークとよく似たキスをして別れる。「僕もとても、愛していたよ。」「それだけ言いにきたんだ。じゃあね。元気でね。」

「私」はそこに立ちつくし、いつまでもクリスマスソングを聴いていた。

 

   ■ 参考までに、この書籍のトップにも掲載されています。

齋藤孝のイッキによめる! 名作選 中学生

 

【学習過程】(50分授業)

@        (すぐに)資料を読み聞かせる。(15分)

        余計な前振りは、逆効果でしょう。すぐに読み聞かせを始めます。資料はゆっくりで10分です。

        読んだ後、牧羊犬のかわいらしさなどを出し合い、デュークが主人公にとって、本当にかわいかったことを共感的に理解する。

        資料への導入のため、何か手だてを打つなら、(1)挿絵の一部を提示して、感想を出し合う。(2)今まで飼ったことのあるペットを紹介し合う。などが考えられるでしょう。いずれにしても短時間がふさわしいです。

 

A        「立ちつくしている私」の気持ちを話し合う。(25分)

        前の方から刻んで、場面ごとに発問する展開は、この資料と内容項目には相応しくありません。デュークのかわいさや青年との楽しいひとときに関する気持ちも扱えるよう「最終場面の主人公の気持ち」を問い、自由に感じたことを話し合います。

        発問1:「立ちつくし、いつまでもクリスマスソングを聴いていた私は、どんなことを考えたり、思ったりしていたでしょうか。様々想像してみましょう。」

        (1)デュークに会いたい、再び暮らしたいなど、デュークの死をまだ受け入れられない気持ち、(2)デュークが死んで悲しいなど、デュークの死の悲しみを乗り越えられていない気持ち、(3)デュークも自分のことを本当に愛してくれていたのだという、満足感、安心感に似た気持ち、(4)デュークの「じゃあね。元気でね」の言葉にもあるように、「これからは、元気に生きていこう」という前向きな気持ち、などに分けながら、板書します。

        もちろん、「青年はデュークなのか」とか「デュークが青年の姿を借りて、メッセージを伝えに来た」などの青年の正体についての意見が出るでしょう。「デュークが『私』のことが大好きで、最後のお別れを言いに来たのでしょうね」くらいで、流しておいて、「だから、(あるいは、そうだとしたら、『私』はどんなことを考えたでしょうか)と改めて問うことになります。

        それぞれの考えを受容しながら、(1)(2)と(3)(4)を左右にかき分け、ナンバリングして、「どの気持ちが大きくなってきているだろうか。」や「朝に比べて小さくなってきているのはどの番号の気持ちだろうか」などと発問し、主人公「私」の気持ちの変容を掴ませる。

        国語ではないので、叙述に即した根拠が出ても、さらりと流して、「あなたならそう感じるんですね」や「あなたは、『私』の気持ちが受け止められるんですね」など、できるだけ「自分事」として捉えられるように対応する。

        話し合いの最後に、子どものそれまでの「印象的な発言」を借りながら(ここが結構大切で、ちゃんと価値付ける子どもの発言を覚えておかなければなりません)「長い間生きる中で、人間はどうしても乗り越えなければならない「悲しみ」や「つらさ」に出会います。しかし、この主人公のように、いっぱい泣いて悲しみ、そして、その悲しみを受け止め、最後には、強く生き始めようとする気高さをもちたいものです。みなさんには、そのような強さや気高さ(の芽)をもっている」とまとめます。板書の(1)(2)と(3)(4)の間に「気高く・強い気持ち、生き方」などと書き印象づけるとよいでしょう。

 

A        ペットロスについて話し合う。(10分)

        教師から、ペットロスの内容や、「虹の橋」の詩などを紹介して、伴侶動物とのつきあい方などについて、感じていることやこれまでの経験など出し合う。話し合うのではなく、出し合う程度。

        内容項目が「気高い生き方」なので、飼い方など細かなことに焦点が当たらないように配慮する。

        以上の活動が説明的になって、読み物資料のよさ・温かさ等が壊れてしまうと考えられる場合には、まとめとして、「授業の感想」を書かせた後、最後に「虹の橋」を読み聞かせ、余韻を残して終わるか、逆にして「虹の橋」を読み聞かせ、「授業の感想」でもいいですね。