「麦を噛む」で命ついて話し合う

【対 象】 中学生

 

【ねらい】 伊集院静の小説「麦を噛む」における父親の気持ちを話し合うことを通して、一生懸命生きることのよさを感じ取り、生命の尊さについて考えようとする態度を養う。3-(2)

【学習内容】

(1)精一杯生きることのすばらしさを感じ取る。

        父が息子に野球をさせた気持ちについて自分なりの考えをもつこと。

        息子が野球をしたいと願った理由について考えること。

(2)自分の将来の夢を再度思い浮かべる。

        10分間考え続けること。

 

【資 料】「麦を噛む」 伊集院静:著 

『ぼくのボールが君に届けば』 講談社 2004.3.10 所収
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4062118912
/ref=pd_rvi_gw_2/503-8941349-3864713

        概要

   1才の息子が、肌に紫外線を当てられない難病にかかる。9才に成長した息子の「野球がしたい」との願いを受け、夜のグランドでキャッチボールを教える父。とても喜んだ息子は、しかし、2か月後、息を引き取る。入院前の早朝、何度かユニホーム姿の少年が外を歩いていたという噂が立つ。それが息子なのか否かは不明。野球をさせた父が息子を死に追いやったと責める母。父も、自分が息子を死なせたのだと苦しむ。が、野球を教えたことは間違いではなかったのではないかと考え続ける。

 

【学習過程】(45分授業)

@        資料を読んで感想を出し合う。(15分)

        家族構成などを予め簡単に伝えた後、P.283 L4〜P.292 L16を読み聞かせる。その後、各自、再度ゆっくりと読む。多少内容を補足する。できれば、朝の読書などで全文読むと、父親の野球に対する思いなどがよく分かってよい。もちろん、この点については、十分補足する。

        発問1:「感じたことを自由に発表してください。」

        @「紫外線に肌を当てることができない病気というのはどんな病気なのだろう」という病気そのものについての疑問、A「明るいうちは外に出られないというのは、とても辛いだろう」という息子の苦しみに対する共感、B「そんな息子を育てる両親は、息子以上に悲しく、辛いだろう」という両親に対する共感、C「どうして息子は死んでしまったのだろう」という死因についての疑問、D「母親が父親を責める気持ちはよく分かる」という母への共感、E「父親の苦しみがよく分かる」という父に対する共感、F「父親が野球を教えてやれたことは間違いではなかったという気持ちはわかる、とか、分からない」等という感想 などが出る。

        @については、教師が分かる範囲で補足し、これらの感想をもとに、学習課題「精一杯生きるということについて考えてみましょう。」を提示する。

 

A        父が息子に野球をさせた思いについて話し合う。(20分)

        発問:「父がどんな思いから息子に野球を教えたのだろうか」

        野球を教えたことがよかったか悪かったかと言えば(そのような話し合いをしてはならないと思うのだけど)それは、「よいとは言えない」はず。結果として、息子の死を早めた。ここでは、父親の強い願い、思いを話し合うことを通して、息子の父親に対する憧れの気持ち、野球に対する強い関心などにも適宜触れながら、(つまり考える対象を父親から息子に適宜移動させながら、と言うか、あっち考えたりこっち考えたりしながら)父親として息子にしてやりたいこと、息子を思う気持ちに対する共感的な理解を引き出す。

        @「日中は部屋の中でしか過ごせない難病の息子が、野球をしたいという気持ちになったことがうれしくて、実は、父親も小さな頃から大好きだったそれを是非教えてやりたいと考えた。」A「教えるというより、一緒に野球を楽しみたいと考えた。何と言っても父と息子である。父と息子のキャッチボールは特別の意味がある。」B「力強く生きたい、野球を精一杯楽しみたい息子の気持ちがよく分かった。息子にとって、野球は、強く生きていることを実感できる大切なものだったのではないか。」などの意見を元に、息子の精一杯生きたいという願いや、父親として息子に精一杯生きてほしいという期待感等を共感的に理解させる。その中で、精一杯、一生懸命に生きることのすばらしさを感じ取らせる。

 

B        「自分にとっての野球(夢)をプリントに書く。(10分)

        発問3「この小説の息子にとっては、野球をすることが大きな夢であった。自分の命と引き替えなければならないほどの夢だった。もちろん、この息子はそこまで真剣に考えていたわけではないけれども、結果としては、そうなった。さて、自分を振り返って、皆さんの今の願い、希望などは何ですか。10分間静に考えてください。」

        静に考えるだけで終わりとする。継続して考え続けるために、教室掲示するとか、学級通信に授業について掲載するなどする。

        なお、この話は、中学生には若干難しいことから、高校のLHRで扱うこともよいかも知れない。