「銀のしょく台」で寛容を考える

【対 象】 小学校6年生

【ねらい】 「銀の食器といっしょに、しょく台も差し上げたのに。どうして持っていらっしゃらなかったのかな。」と言う司教の思いを話し合うことを通して、自分も過ちを犯すかもしれない弱い人間であるという自省の精神を常にもつよさを知り、人に寛容であるとともに常に謙虚に生きようとする態度を養う。2-(4)

【学習内容】

(1)人の過ちを許す寛大な心をもつべき根拠

        自分も過ちを犯すことがあるかもしれないとの自覚

        人がよりよく生きることを援助する責任や役割の自覚

(2)自分に対して常に謙虚であるべき根拠

        人に学びよりよく生きるべきであるとの自覚

        人のために役に立つべきだという責任と役割の自覚

 

【資 料】「銀のしょく台」

(『明日をめざして 道徳6』 東書 H16年度版 所載)

   粗筋

19年間入れられていた刑務所から出てきたジャン・バルジャンを泊める宿屋はなかった。結局、ミリエル司教の家に泊めてもらったジャンは、夜中、夕食を盛っていた銀の食器を盗んで逃げた。

朝、家政婦が銀の食器がなくなっていることを司教に伝えると、しばらく黙っていた後、「いったい、あの銀の食器は、わたしたちのものだったのだろうか。」と言って、許す気持ちを伝えた。

朝食後、憲兵がジャンを連れて司教の家を訪れた時、司教はジャンに向かって「あなたに、銀の食器といっしょに、しょく台も差し上げたのに、どうしてもっていらっしゃらなかったのかな。」と告げる。憲兵が「そういうことでしたら、このままゆるしてやってよろしいでしょうか。」と尋ねたのに対して、司教は、きっぱりと「もちろん、そうしていただきましょう。」と言う。

ジャンは、今にも気を失いそうな様子をして、そこに立ちつくしていた。

 

【学習過程】(45分授業)

@        資料を聞き、自由に感想を発表する。(10分)

        発問1「感じたことを発表してください。」

        事実関係を時間に沿って、十分理解させながら2度ほど読み聞かせ、感想発表の時にも内容理解や心情理解を深める。

        「せっかく親切に泊めて食事までふるまったのに、食器を盗まれてしまったら、あなたは、どう感じますか?」「わざわざ銀のしょく台まであげるのをどう思いますか」などと投げかけながら、「司教の考えから大切な生き方を学ぼう」という課題を設定する。

 

A        司教の考えについて話し合う。(25分)

        発問2「司教は、どんな考えから、『銀の食器といっしょに、しょく台も差し上げたのに。どうして持っていらっしゃらなかったのかな。』と大声で言ったのだろうか。」

        (1)憲兵にジャンを逮捕させるわけにはいかない。だから、一芝居うって、憲兵をだまそう (2)ジャンが盗みをしたことを許してやりたい (3)ジャンがこれから少しの間、生活に困らないように、銀の食器に加えて、しょく台もあげることにしたい (4)ジャンには、これからは、決して法を犯してほしくはない の4つくらいに分かれる。

        発問3(1)〜(4)を『目的(願いと言ってもよい)』と『達成のための方法(手段)』に分けてください。○○のために□□したのようにです。○○が『目的』。□□が『方法』です。」(発問4の段取り発問)

        目的1:(2)ジャンの盗みを許したい

           ↓

        方法1:(1)憲兵に捕まらないように一芝居打つ。

        目的2:(4)これからは決して法を犯してほしくない。

           ↓

        方法2:(3)しばらくの間生活に困らないように銀のしょく    台もあげ、その間に、仕事を見付けまっとうな生活をしてほしい。

        その後、目的1(2)と目的2(4)のどちらが一層大きな目的(願い)か話し合ってもよいのだけど、結果、(2)も(4)も同じことを言っていることに落ち着く。

        発問4(主)「司教は、なぜ、許せるのか。(なぜ、食器もしょく台もあげるのか?)」

        (1)銀の食器やしょく台くらいならそれほどの損ではないから(発問3の話し合いがあって、まだ、こんなことを言うようでは、発問3での活動の意味がないのだけど・・・) (2)宗教家だから(つまり、発問3の時の(4)、しっかり生きていってほしいということ)などがでるだろうが、なかなかこれ以上は、イメージが進まないであろう。

        「宗教家ならなぜ許せるのであろうか?」と問い返して、改めて、発問4を考え続ける。結局、答えは出ない。「人間が他人の過ちを許す理由は何か」について、教師が話して聞かせる。

        「人の過ちを許す寛大な心をもてるのは、自分も過ちを犯すことがあるかも知れないという自覚、畏れがあるからで、加えて、周りの人は、その過ちを犯した人のやり直し・生き直しを助ける責任や役割があるからである」、「自分も過ちを犯すかも知れないから人を許すというのは、自分に甘くするために人にも甘くするということでは決してない。自分に一層厳しく謙虚であるために、人に優しく寛容であるということ。(自分に甘い人は、人には厳しいものである」」、「自分に厳しく謙虚でなければならないのは、人に学びよりよく生き、人の役に立たなければならないからである。人間とはそう言う存在だから。」と本時の学習内容を話して聞かせる。(かなり難しい)

 

B        授業の感想を書く。(10分)

        発問5「ジャンになったつもりで、司教に手紙を書きなさい。」

        発問5(代替え:「今日の授業の感想を書きなさい。あなたは、人の過ちを許す広い心をもてるだろうか。」