『杜子春』で「誠実」の授業

 5・6年生、1−(4)「誠実に、明るい心で楽しく生活する」をねらいとした授業です。

 

「朝の読書」「語り聞かせ」などに取り組んでいる学校が多くあります。1年間に何度か、無理のない形で、道徳の授業と関連的に扱うとよいのではないでしょうか。

「朝の読書」の時間に学級の全員に語り聞かせた読み物を、そのまま1時間目の道徳の時間に取り扱うのです。

そうすれば、

(1)  道徳の時間では資料として扱えないくらいの長さの読み物を用いることが出来ます。朝読の10分程度が道徳の時間の一部として確保できるからです。

(2)  道徳の時間で資料提示の時間が節約できるので、書いたり、話し合ったりする時間が長く取れ、思考が深まります。

(3)  「朝の読書」や「語り聞かせ」の活動自体も、読んだ後みんなで意見交換することで、感じ方の違いなどが相互理解でき、一層読むことの楽しさを感じ取れます。

 

【対 象】 小学5・6年生

 

【ねらい】 杜子春の生き方、考え方について話し合うことを通して、誠実に生きることの大切さを感じ取ることが出来る。

    贅沢な生活をする杜子春と貧しい生活をする杜子春から、人間の弱さ、醜さを感じ取ることが出来る。(発表、表情等)

    「人間らしい、正直なくらし」とはどんなくらしなのか、自分なりの考えをもつことができる。(ワークシート)

 

【資 料】 「杜子春」芥川龍之介

(齋藤孝のイッキによめる!名作選 小学3年生)

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062128292/250-0284302-4709814

 

    「朝の読書」でも使うことを想定して、出されている書籍があります。齋藤孝のイッキシリーズは、小学生を対象としていますが、大人のわたしたちでも読み応えがあります。齋藤孝選以外にも

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/405202205X/ref=pd_sim_dp_2/
250-0284302-4709814

       などがあります。

 

粗筋(思い出せない方もいらっしゃるでしょう・・・)

金持ちの息子だったが、財産を使い果たした杜子春は唐の都、洛陽で、老人(仙人)に出会う。「夕日の中に立って影の頭の部分を夜中に掘れ、黄金がいっぱい埋まっている」と言われ、大金持ちになった杜子春は、そのお金で贅沢な暮らしをするも、2年で使い果たし、再びもとの生活に。

再度、同じように仙人に黄金をもらい、贅沢な暮らしをする杜子春。しかしまたまた贅沢な暮らしをし、もとの生活をおくる。

贅沢な暮らしをしているときには、世間の人々は仲良くするが、お金がなくなると優しい顔さえしても見せはしない。

「人間というものにあいそがつきた」杜子春は、今度は、「仙人の弟子にしてくれ」と頼む。数々の試練を与えられたが、仙人との約束であった「絶対に声を出さない」を守っていた杜子春。

ところが、最後に父母の顔をしたみすぼらしいやせ馬がむち打たれるところを見て、はらはらと涙をおとしながら、「おかあさん。」と一声叫ぶ。

その瞬間、もとの洛陽の西の門の下。仙人は「もしおまえがだまっていたら、おれは即座におまえの命をたってしまうとおもっていた」と言う。

「おまえは、もう仙人になりたいという望みももっていまい。大金持ちになることは、もとよりあいそがつきたはずだ。ではおまえはこれからのち、なんになったらいいと思うな。」と聞かれた杜子春は、

何になっても、人間らしい、正直なくらしをするつもりです。」と答える。

今までにない晴れ晴れした調子で言った杜子春に、仙人は、泰山の南の麓にある一軒の家を畑ごとやったのであった。

 

【学習過程】(語り聞かせの時間10分を含めて、合計55分授業ということにしましょう)

 ※ 語り聞かせは、途中で話を切って、考え話し合っては、先を読むというようにします。

 @ 「杜子春の贅沢な暮らしぶりやお客たちのことをどう思いますか(20分)

1.       2度の贅沢な暮らしが終わる所までをゆっくり読み聞かせた後(7分)、この発問です。

2.       贅沢な暮らしをして再びお金に困ってしまう様子にあきれてしまう子どもたちの意見をしっかり出させます。特に2回目も同じように(もともとお金持ちだったことを入れると3回も同じように贅沢をしているんだけど・・・)お金の無駄遣いをしているのには、現代の子どもたちもさすがに情けなく思うことでしょう。

3.       同じように世間の人たちが、杜子春に取り入って自分たちもいい生活をしようとする様子に対して、恥ずかしく思う子どもたちの意見を出させます。自分のことはさておいて、杜子春や世間の人を非難する子どもたちの意見を共感的に聞き、どんどん意見を出させることがコツです。次の返しの発問が一層効果的になるからです。

4.      1,2で、杜子春や世間の人の情けなさを強調した後、「みなさんには、同じようなことはありませんか?」と問い返し、スケールは違ってもこのようなことは、自分たちの普段の生活の中にも見受けられること、特に自分にも同じような経験があることに気付かせます。例えば、「お年玉をたくさんもらうと、ついつい無駄な物も買ってしまう」「お小遣いをたくさん持っている友達や兄弟に、おねだりして、お菓子を分けてもらったり、おごってもらったりする」などなど。

5.       「今日は、杜子春の生き方をもとに、自分のことを考えてみましょう。」と大雑把だけど、本時の課題を提示します。

6.       学習活動の学習内容は、 @価値への気付き(人間は、時に真面目に生きることが出来ないときがある、羽目を外してしまうものだ。)A価値への興味関心(誠実に生きることはなかなか難しいなあ・・・真面目に生きたいけど、自分にはできるのかなあ・・・)、B課題把握(杜子春の生き方をもとに、自分のことを考えてみる)です。@、Aの( )内は、板書したり話したりというような言語化はしません。Bは学習課題なので、板書しなければなりません。一般に学習課題が板書していない授業というのはない、というかまずいと思います。

 

A 「母親は何と言ったと思いますか?」(10分

1.       133ページはじめの母親の言葉の前までを語り聞かせた後、この発問をします。

2.      「心配をおしでない。わたしたちはどうなっても、おまえさえ幸せになれるのなら、それよりけっこうなことはないのだからね。大王がなんとおっしゃっても、いいたくないことはだまっておいで」を想像させ、自由に発表させます。母親の愛情の深さを感じ取らせることがねらいなので、正解が出なくても構いません。短時間考えさせたら、すぐに続きを語り聞かせます。

3.      「大金持ちになればお世辞をいい、貧乏人になれば口もきかない世間の人たちにくらべると、なんというありがたい志でしょう」という杜子春の捉えを何度かくりかえして読んだ後、「お母さん」と一声叫んだ部分に進みます。

4.       このあたりは、「語り聞かせ」をしているだけで、特に道徳の授業というわけではないってかんじでしょうか。

 

B 「杜子春は何といったと思いますか?」(10分)

1.       「ではおまえはこれからのち、なんになったらいいと思うな。」と問われた杜子春の答えを話し合います。

2.       「無駄遣いをしないでくらす」「せっせと働く」「父母のことを思い出しながらくらす」などの答えが出るでしょう。ある程度出てきたら、本文中にある「なんになっても、人間らしい、正直なくらしをするつもりです。」を提示します。

 

 C 「『人間らしい、正直なくらし』とはどんなくらしなんだろうか?」(15分)

1.     Bで出てきた杜子春の言った言葉の続きを、自分の生活に置き換えて、具体化する作業です。(1)基本的な生活習慣(もちろん金銭にかかわることを含めて)に関する意見、(2)嘘をつかないなどの誠実・正直に関する意見、(3)友達や家族と仲良くするなどの人間関係に関すること、(4)真面目に働くなど勤労(社会奉仕も含めて)に関すること、などある程度括って板書し、それぞれにラベルを付けるといいでしょう。だから「あなたは、どうするの?」という行為の具体に持っていかない方がいいと思います。それをするなら、別の学級活動の時間に扱いたいですね。

2.     最後の仙人からのおくりものの場面を読み聞かせ、余韻を持たせて終わります。