絵本『はじめてのおつかい』で「家族愛」の授業
道徳授業の資料は、(1)子どもと同じ年頃の主人公が描かれているもの、
(2)よりよい生き方をしている著名な人物が描かれているもの、がほとんどです。
学習する子どもよりも年下の主人公が登場する資料は、ほとんど見あたりま
せん。
ここでは、自分よりも年下の主人公が描かれた資料を取り上げます。2,3
年前の年頃の主人公です。主人公は、子どもたちも必ず経験した「はじめてのお
つかい」を体験します。おかあさんのために、ひとりで牛乳を買いに出かけた
主人公の行動や心情に共感しながら、家族のために自分のできることをしっか
りやり遂げることのよさを味わいます。
その中で、自分もそのようなことをりっぱにやってきたことを思いだし「自
己肯定感」をはぐくむとともに、家族愛について学ばせることにしました。
【対 象】 2年まで。できれば1年生。
【ねらい】 牛乳を買って涙を流した主人公「みいちゃんの気持ち」を話し合
うことを通して、家族のために自分のできることを一生懸命やろう
とする心情を育てる。
【資 料】 『はじめてのおつかい』作:筒井頼子、絵:林明子、福音館書店
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4834005259/249-2272503-4721136
http://www.fukuinkan.co.jp/bookdetail.jsp?goods_id=248
【学習過程】
@
絵本の表紙(題名とミルクを持ってうれしそうにほほえむ「みいちゃん」)
を見せて、「かわいいね。この子は、5歳です。はじめてのおつかいってい
う題の絵本ですよ。どうしてこの子は、笑っているのかな?」
*
子どもたちに自由に発言させる。ゆったりと受け止め、発言内容を認め
る。
*
ほどなく「はじめてのおつかいで牛乳を買うことができたのでうれしく
て笑っている」という意見が出る。
*
その後、最後までゆっくりと読み聞かせる。30人以上のクラスなら、
OHCで拡大しながら読み聞かせるとよい。
*
一度読んだ後、再度、ゆっくりページをめくりながら絵本を見せる。粗
筋を理解させる。重要な文は短冊黒板にあらかじめ書いておいて同時に添
付する。
*
自由に感想を述べさせるのもいい。
A
「どうして、なみだがでたのかなあ?」
(発問1・・・自分の考えを対象化する発問)
*
転んだとき膝をすりむいていて痛かったのを我慢していて、ほっとした
ら涙がぽろりと出た。@
*
お店の人を何度も呼んだのに出てきてくれなかったから、心細くて涙が
出そうだったのを我慢していて、その涙が、ほっとした瞬間に出た。A
*
牛乳が買えるかどうか心配だったけど、やっと買うことができたので、
安心してほっとして涙が出た。B
*
二人のお客さん(サングラスの男の人、太ったおばさん)が自分より先
に買い物をしたのが悔しかった。その涙・・・C
*
おばさんが何度も謝ったから悲しさがかえって大きくなったから。・・D
*
幾つかの意見を@〜Dに類別して、板書する。
B
「5つの意見の中で、どれが一番みいちゃんの気持ちに近いと思います
か? そして、それの理由は何ですか? 自分がみいちゃんだったらど
んな理由から涙が出ただろうか?自分の幼稚園や保育園の時のことを思
い出して想像してくださいね。」
(発問2・・・価値観を深める発問)
*
「お母さんからの頼まれた「はじめてのおつかい」がやっとのことででき
そうだったので、安心したっていうのが一番近いんじゃないかと思うよ。
ぼくは、はじめておつかいに行ったときのことを覚えていないけど、幼稚
園ならかなり緊張したと思う。」などの意見に集約されていく。
*
一人一人の個人的な体験を意図的に問い返しながら引き出す。そして、
ほめる。「すごいねえ。○○さんは、そんなおつかいをしているんだね!」
1,2年生なら、どんどん自分の経験を話し始める。どれもほめる。
*
主人公の気持ちを話し合っているつもりが、「自分の体験発表会」になっ
てきたところで、次の学習活動に移る。自分を見つめる活動です。
C「みいちゃんのように、家族のためにどんなことをしていますか?」
(発問3・・・自己を振り返る発問)
*
大切なのは、(1)子どもの発言を否定しないでどれも認めてやること、(2)
お手伝いの種類を幾つかのグループに仲間分けしながら板書すること、
(3)してもらった家族の人の感想や気持ちを問い返すこと、(4)やった後の
自分の気持ちを問い返すこと、です。
*
数人発表させたら、プリントに書かせるのもいいでしょう。全員が発表
できれば言うことなしです。
*
最後に、「友達の発表を聞いて、どんなことを考えたのか?」発表させた
り、プリントに書かせたりすることが大切です。集団で学んでいる価値や
意味は、ここにあります。
*
授業者の考えによりますが、例えば、(1)家族に対していつも笑顔であ
るようにしている、とか、(2)挨拶をきちんとしている、とか、(3)言葉遣
いに気を付けている、とか、なども「家族のためにしていること」として
「忘れがちなことで大切なこと」ということを指導してみるのもいいかも
知れません。
D「みなさんは、家族のためにすることが増えていくという点で、成長して
います。家族のためにすることが増えるって言うことはすばらしいこと
なんですよね。それが『大きくなる』っていうことだし、『家族を愛する』
ってことですよね。自信をもって家族のために生活してくださいね。
今日は、みなさんの「できるようになったこと」から「家族」っていうこ
とについて考えてみました。終わりましょう。」